精神障害の労災申請をするには、申立書の作成が必要になります。
労災を調査をする労働基準監督官は、会社の内情も事業内容もハラスメント行為も知らない状態です。
職場の人間関係も全く知らない人が、提出された資料や証拠、聞き取り調査をもとに、労災か否かを判断します。
労災請求の様式第8号だけではあまりに説明不足。そのため、申立書を作成して詳細を伝える必要があります。
今回の記事では、申立書を作成する際の心構えと、基本的な書き方を紹介します。
精神障害の労災申請 申立書の基礎知識

概要
リーフレットをもとに出来事を確認
精神障害の労災申請リーフレットを読み込み、自身に発生した出来事を「強」判定に近づく出来事と、それを証明できる証拠を集める。
例えば、長時間労働を示すタイムカードやPCログ、ハラスメントを示すメールやメモ、職場の変化に関する通知などの証拠を、リーフレットをもとに集めます。
リーフレットの活用法は以下の記事にて説明しています。
出来事と症状の文書化
申立書は、文章で出来事と症状の因果関係を主張するものです。
どんな出来事があって、体調はどのように変化していったのか、そのときはどんな気持ちだったのか。うつ病や適応障害などの精神障害発症に関連する出来事を自己申告します。
この申立書を軸にして、出来事を証明する証拠を集めていきます。
精神障害の労災認定となるには、精神疾患の発病は業務に起因する(業務上の出来事により、精神病が発病した。)こと。
そこでリーフレットに記載されている出来事の事例と、自身の出来事を照らし合わせます。
「強」判定に該当しそうな出来事があれば、その点を最も主張。そのほかは、複数の「中」判定の合わせ技で「強」判定を狙います。
申立書作成ポイント
・出来事の詳細を客観的に説明する
・出来事を証明する証拠がある
調査をする人間(労働基準監督官)が、見やすい申立書を作成しましょう。
申立書をもとに行われる聴取
労災申請後、労働基準監督官と面談する機会があります。
私の場合は対面でしたが、移動が困難な場合は電話聴取もあるようです。
監督官は申立書をもとに質問してきます。そのため申立書の作り込みができていると、聴取もスムーズに進みます。
私の場合は、聴取に5時間かかりました。
SNSで調べてみると、1時間で終わった人もいれば、2日にわけて7時間近くに及ぶ聴取があった人もいます。
聴取の差が生まれる原因は、出来事の多さに比例すると考えます。
例えば、精神障害の原因が1つのハラスメントによるものであれば、聴取で聞かれる内容は以下のようなものです。
誰から、いつ、どこで、誰から、どのようなハラスメントを受けたのか。そのハラスメントの発生要因や職場の対応など。
複数の出来事があった場合、各出来事について詳細を尋ねられるため、聴取に時間がかかります。
とはいっても、基本は申立書に記載した内容を尋ねられます。自分で作成した申立書のため、質問内容は予測できます。
聴取の流れはこのような感じ
監督官は申立書を確認しながら質問されます。
そのため
- 自分が伝えやすい
- 監督官が見やすい
- 証拠を提示できる
以上を前提に申立書を作成して、「証拠はこちらです」と自分から進んで証拠を提示していきましょう。
証拠としての価値は監督官が判断してくれます。
労災申請は論より証拠。感情で訴えるより事実を証明しましょう。
精神障害の労災申請 申立書

「申立書(精神障害者用)」と検索すると、Word形式の申立書がダウンロードできます。しかし、私がもらった書式と若干異なっていました。
ダウンロードして確認すると、「5.出現した心身の症状等・出来事に関する事項」の年号が平成になっていたため、古いリンクなのかもしれません。
そのため、申立書用紙は初回相談時に受け取ることをおすすめします。
労災申請前の初回相談時に労働基準監督署へ行ったときに、申立書をもらってください。
初回相談時に入手する書類
・申立書
・精神障害の労災申請リーフレット
・様式第8号(ついでに様式第5号)
・様式第8号のパンフレット(休業等給付傷病等年金の請求手続パンフレット)
これらの書類は、労災申請前の初回相談時に入手してください。
様式第5号(医療費)については労災認定後に遡って請求できるため、まずは様式第8号を提出して労災申請をスタートさせましょう。
精神障害の労災申請 申立書の概要
どの項目も記入欄が小さいため、補足資料を作成することを前提に進めます。
手書き部分は少なくして、PCで補足資料の作成をおすすめします。文字の大きさを変更したり、太字に強調させたりできるので、PCで作成した方が綺麗な資料が作れます。
1枚目

自己申告で、発病時期や病院で受診することになった経緯の質問があります。
簡単な設問は手書き、説明が必要な設問はPCで作成するつもりで申立書を作成していきます。
1.精神的な症状の発病時期
精神的な症状はいつ頃から始まりましたか。
記入例
2023年9月〜12月
私のケースになりますが、考えられる発病時期が9月(長時間労働)、10月(大きなタスク終了)、12月(悪質なハラスメント)の三回ありました。
それぞれの月で、強い心理的ストレスを感じる出来事でした。
自分では決められなかった、発病時期は「9月〜12月」と記入し、労働基準監督官の判断に任せることにしました。
様式第8号の7番「負傷又は発病年月日」と異なっても構いません。
様式第8号 7番「負傷又は発病年月日」
厚生労働省
精神障害の労災申請は、論より証拠です。そのため、発病前6ヶ月のうち
- 出来事が多い月(リーフレット「中」判定が多い)
- 出来事があったことを証明できる月
この2点を考慮して、発病月を選んでください。
申立書の内容や担当医への聞き取りが終わり、労働基準監督署は申請者(わたしたち)の発病時期を決めます。
聴取の際は、労働基準監督署が決めた発病月の過去6ヶ月間の出来事を聞き取り調査します。
このときの質問内容から、労働基準監督署は申請者(わたしたち)の発病時期はいつごろを見立てているのか、予測できます。
私の発病時期は、9月と予想できました。
発病後の出来事については、基本的に調査範囲外となります。出来事と証拠の有無を判断して、申立書を作成してください。
2.どのような症状がどの位続いたのか
その症状を含めて、どのような症状がどの位続いたのかについてできるだけ詳しく教えてください。また、病院に行くことになったきっかけについても教えてください。
記入例
長時間労働で体調を崩して約一週間仕事を休む。その後も体調が優れない状態が続き、12月ごろから睡眠障害が発生。何もしていないにも関わらず涙が出るようになったため心療内科を受診。うつ病と診断される。
私は様式第8号に記載した内容を簡潔にまとめて記載しました。
こちらの記事で様式第8号の書き方を紹介しています。合わせてご覧ください。
2枚目
通院状況や勤務状況の質問になります。
3.精神症状に関する治療の経緯
現在の精神症状に関する治療の経緯を教えてください。
この項目では現在通っている病院名や、医師から告げられた病名を記入します。
病院を変えた場合は、すべての病院を記入します。これをもとに労働基準監督署は、医師に聞き取り調査を行います。
4.勤務状況等について
勤務状況等について教えてください。
自分の部署や役職、業務内容などを記入します。
箇条書きで良いので日々の仕事の内容を記入してください。
記入例
データ分析、分析資料作成、営業資料作成、企画立案、プレゼンテーション、顧客対応(電話・メール)、在庫管理、画像加工(Photoshop使用)、プログラミング(簡単なもの)、領収書発行、等
発病前6か月間の時間外労働の有無を記入する欄があります。
サービス残業があり勤怠記録と異なる場合であっても、実際に働いた時間を記入してください。
私の場合、会社が管理する勤怠記録(出勤簿)では時間外労働は0時間でした。
しかし、サービス残業が20時間~100時間あったので、実労働時間を正直に記入しました。
サービス残業を証明するには証拠が必要です。私の場合はPCログから確認しました。
PCログから実労働時間を確認する方法は、以下の記事になります。
必要に応じてご確認ください。
3枚目

5.出現した心身の症状等・出来事
出現した心身の症状等・出来事に関する事項
ここが最も主張する箇所になります。私は紙の申立書は空欄にして、補足資料としてWordで作成したA4用紙11枚を作成しました。
いつ頃から、どのような症状が現れたのか。時期と症状、そのころに心理的に負荷となった仕事上の出来事の詳細を説明します。
私が作成した申立書の補足資料は、ボリュームが多すぎるため別の記事にて紹介します。
概要をざっくりお伝えすると、実際の出来事と身体の不調を時系列にまとめました。
業務上の出来事:部署異動があった、上司が変わった、業務内容の変化した、継続したハラスメントを受けた、等
身体の症状:ノルマ達成に強いプレッシャーを感じていた、上司からの嫌がらせに毎日苛立ち攻撃的になっていた、常に疲労を感じていた、等
発症前6ヶ月間の出来事をまとめれば問題ありません。しかし、私の場合は発症時期が不明だったため、12か月分の出来事をまとめました。
そのため、A4用紙11枚という膨大な枚数になりました。
4枚目
ここは個体側要因を伝える設問になります。
もしも該当するものがあれば、残念ながら労災認定の可能性は低くなります。
理由は、精神障害の発病は業務に起因することが労災認定の前提となるからです。
そのため、身の回りの不幸や過去の病歴から、今回の労災申請が不利になる可能性があります。
設問「その他気になることがありましたら記入してください」
ここは空欄で提出してください。
書いてはいけないこと
ご近所トラブルで困っている、飼い犬の調子が良くなくて不安になる、子どもが反抗期で対応に悩んでいる、等
設問以外の内容については、伝える必要はありません。
申立書は、業務によって精神障害が発病したことを伝える、つまり労災認定につながる内容を記入する必要があります。
設問以外の個人的な情報を記入しないよう気をつけましょう。
6.発病前6か月間の仕事関係以外の出来事
発病前6か月の間に、仕事の関係以外にあなた自身や身の回りで起きた出来事で、次の表の項目にあてはまる出来事がありましたら、その項目の右の該当欄に○印と出来事があった時期を記入してください。
もし該当項目がある場合は、隠さずに事実を伝えましょう。
労働基準監督署は過去5年間ほどの病院の通院歴や健康保険の使用履歴を確認しますので、確実にバレると考えてください。
加えて会社側の聴取の際、同僚や上司から身の回りの出来事を暴露されると思っておいたほうが良いでしょう。
特にハラスメント上司や責任を負う社長は、労災認定を阻止したい一心で在る事無い事を言う可能性も考えられます。
わたしたちが労災認定になった際、上司の処罰はほぼ確定。そのため嘘をついてでも労災認定を阻止してきます。
設問に該当する項目があるのなら自分から正直に話して、隠し事はしていないと監督官にアピール。監督官の心象を少しでも良くする方向で進めましょう。
7.精神障害を発病する前の治療歴
今回、精神障害を発病する前の飲酒による問題や病院での治療歴について教えてください。
こちらについても、該当する事実があれば正直に答えましょう。
精神障害の労災申請に時間がかかる理由は、うつ病や適応障害といった精神障害の発病と、業務の関係性を第三者が調査するためです。
黙っていても調査の過程でバレると考えておいたほうがいいでしょう。不都合な事実もなるべく自己申告してください。
5枚目

8.学歴及び職歴
学歴及び職歴を教えてください。
学歴や過去の職歴を記入します。職歴欄の職種には、小売業や卸売業といった業種を記入して構いません。
私の場合、聴取で学歴や職歴は尋ねられませんでした。
入社する際に提出した履歴書と同じ内容を記入すれば、詮索されないと思います。
9.家族構成
家族構成を教えてください。
記入例のように、該当者を丸で囲みます。
両親・本人・兄弟・妻・夫・子ども、該当する家族構成を書きましょう。
10.健康診断の記録や出退勤の記録等
次の資料がありますか。(健康診断の記録や出退勤の記録等)
私は健康診断記録のコピーと、1年間の出退勤記録をプリントアウトして提出しました。
私の場合は発病時期が不明のため、1年間の記録を提出しました。
出退勤記録にはサービス残業時間が記入されていないため、実際の労働時間(PCログ)を合わせて提出しています。
出退勤記録は会社側も提出するため、準備しなくても問題ないと思います。
印刷代がどんどん積み上がっていきます・・・
6枚目
11.精神障害の発病が業務に原因があると考える理由
あなたが今回の精神障害の発病が業務に原因があると考える理由を詳しく教えてください。
私は、ここも強調したかったので空欄にして提出しました。
かわりに補足資料としてWordで作成したA4用紙5枚を提出しました。
ここで伝えた内容は、個体側要因がなかったこと。
日頃から運動習慣があった、睡眠時間は7時間を確保していた、食生活に気にかけていた、等
しかし、業務上のストレスが増えるにつれて乱れていった生活習慣をアピールしました。
ほかにも、
業務上のストレス要素の代表的な出来事、不公平な人事評価制度、杜撰な労務管理、会社のストレスチェック、等
精神疾患の発病が、いかに業務に起因していたかを説明しました。
リーフレットの「中」判定の出来事の要約や、過去の事例に当てはまる項目を重点的に伝えました。
ボリュームが多くなるため、別記事で申立書の各項目を深掘りし、書き方のコツを紹介します。
追記
後日、家から近い労働基準監督署に申立書をもらいに行きました。
確認すると、私が提出した申立書とは若干書式が異なっていました。

12.あなたは現在、仕事をされていますか。
13.今回の労災申請にあたり、あなたから提出された申立書、資料等について、所属事業場、関係者(上司、同僚等)へ指示することを同意いただけますか。もし、同意いただけないとする場合には、お手数ですが、その理由を教えてください。
私も監督官に尋ねられました。
ここで自信満々にYESと答えると、嘘はないという印象を持ってもらえるかもしれません。
記事のまとめ

今回の記事をまとめます。
申立書作成ポイント
・業務上の出来事と心身の症状を関連づける
・文章と証拠を一致させる
・聴取を見据えて作成する
基本的には、申立書に記載した出来事を証明する証拠の提示が必要になります。
監督官は申立書をもとに、大まかな概要を掴みます。
そのため私のように、多くの補足資料を作成することは好ましくありません。どの部分が重要なのか、読み手がわからなくなってしまいます。
労災認定に近づくように、過去の事例やリーフレットを確認しながら申立書を作成しましょう。
この申立書をもとに、このあと行われる聴取の段取りが決まります。
そのため、
・自分が伝えやすい
・監督官が見やすい
・証拠を提示できる
以上を前提に、申立書を作成します。
申立書の作成は時間がかかります。嫌な出来事を思い出して整理する作業です。大変な作業ですが、申立書はとても重要です。きっちり仕上げて聴取に備えましょう。
この記事を通じて、あなたが証拠収集のプロセスをより理解し、自分自身を守るための手段を見つけられることを願っています。
この記事シリーズでは、労災申請のプロセスを分かりやすく解説します。
あなたの苦痛は事実であり、その苦痛には正当な理由があります。
精神疾患発症の原因が業務であることを一緒に証明していきましょう。
労災認定を目指して一緒にがんばりましょう。







